「12 Stradivari」(ジャニーヌ・ヤンセン:ヴァイオリン、アントニオ・パッパーノ:ピアノ) [器楽]
トランペットとオルガンのためのマジカル・メモリー(ティーネ・テイング・ヘルセット、トランぺット他) [器楽]
「Opera Fantasy」(上野由恵:フルート、石橋尚子:ピアノ) [器楽]
上野由恵は、2007年日本音楽コンクール第1位で、現在まで国内の主要なオーケストラと共演 している若手のフルート奏者。「Opera Fantasy」とタイトルにあり、オペラの旋律をフルートに編曲した技巧曲などが5曲演奏されている。ただ、ピアノ伴奏にはオペラのドラマを意識した所が見られるものの、フルートはもっぱら華麗な技巧の披露が中心で、あまり知られていないオペラが多く、オペラチックな楽しみを期待するのは無理。その技巧は、さすがに指使いが流れるように自在で華やか、かつ安定して危なげのないものだ。貴重な才能で、こうして技巧曲ばかり並ぶと、コンクールで課題曲を聴かされているような気分にもなるが、オケと一緒とか演奏会なんかで聴くと華があっていいんだろうと思う。[CRYSTON]
フルートとオーボエのための二重奏によるオペラ名旋律集(ヴォルフガング・シュルツ:フルート、ハンスイェルク・シュレンベルガー:オーボエ) [器楽]
1987年録音の古いCDだが、折につけては本当によく聴く。 シュルツはウィーン・フィルの首席だが、名手が揃ったベルリン・フィルの奏者との共演を好んで行った。ここではオーボエのシュレンベルガーとモーツァルトの四大歌劇からの名旋律を演奏している。ベルリン・フィルのオーボエというと、ローター・コッホがカラヤン黄金期の奏者として有名で、シュレンベルガーはそれほど知られてはいないが、コッホ同様、よく通る音色を持っている。とはいえ、やはり音楽を引っ張っているのはシュルツだ。この人の音色は中域が豊かで、一つ一つの音が高域に至るまでゴージャスだ。音楽は端正で、かつ活き活きとして自然で心地よい推進力がある。左右スピーカーの中央・左寄りにフルート、右寄りにオーボエが定位し、時に聴き分けがつかないほどに音色が混ざり合って、呼吸がぴったり合った楽しい演奏が繰り広げられる。[DG]
「愛の夢」(千住真理子:バイオリン) [器楽]
千住真理子は、旋律の歌わせ方に非常に豊かな才能と音楽性を感じさせるバイオリニストだ。海外での実績がないわけではないが、活動の中心を国内の教育的・啓蒙的な分野に置いている。このCDもそういった性格を持っており、どれもこれも名曲中の名曲ばかり。通好みの凝った選曲はない。「思い出」(ドルドラ)、「花の歌」(ランゲ)、「エストレリータ~小さき星に~」(ポンセ)など、歌い口がうまくて思わず聴き惚れる。ストラディバリウス「デュランティ」の深みのある音色の素晴らしさも、スピーカー越しに伝わってくる。最後に演奏される「ラストナイト~想い出~」(千住明)は実兄の作品で、旋律の美しい佳品。ただバイオリンの魅力ともいうべき重音とかスタッカートとかを、中間部あたりで聴きたかったと思う。日本人による小品集としては異例に(?)満足感が高く、バイオリン音楽の入門用として最適のCDと思う。 [EMI]
バッハ「無伴奏バイオリン・ソナタとパルティータ(全曲)」(アリーナ・イブラギモヴァ:バイオリン) [器楽]
私は半年ほど前に同誌付録のCDでそのさわり(ソナタ3番4楽章)を聴いて、そのあまりの技巧の冴えに驚いてすぐに購入した。以来、幾度となくこのCDを聴いている。
全体に抑制された表現で、ノンビブラート、禁欲的とも言えるモノトーンで静謐な世界が繰り広げられる。速い楽章での技巧は相当なものだ。ただパルティータ3番になっても依然として明るさが見えてこないこの演奏は、くすんだ音色と共に決して耳に快くない。
俗世間と距離を置いているかのようなこのバイオリニストは、やはり一筋縄ではいかない。じっくりと付き合っていこう。[hyperion]
「マドリガル」(古澤巌:ヴァイオリン、小林道夫:ピアノ) [器楽]
ロード「24のカプリース」(アクセル・シュトラウス:バイオリン) [器楽]
クロイツェル「ヴァイオリン教則本 42の練習曲」(木野雅之:ヴァイオリン) [器楽]
青春の輝き~上松美香 plays カーペンターズ [器楽]
(SHM-CD)
アルパ奏者の上松美香が、カーペンターズの有名曲を様々なミュージシャンとともに演奏している。生き馬の目を抜く音楽業界で活動するためには、最低限の競争心や闘争心は必要だ。でも、この優しい演奏からはそういうものは全く感じられない。何か自分が住んでいる社会とは別の心豊かな世界に入ったような感覚を覚えて、ジーンとする。本人も、長野から東京の高校に入ってうまくいかず、母親とパラグアイに渡ったという。きっとそこでは、価値観が根本的に違うのだろう。アルパの演奏は、楽譜を使わないせいかリズムに躍動感があり、「ジャンバラヤ」での安井源之新の打楽器も、南米人としか思えないほどの素晴らしいリズム感を見せる。SHM-CDの音がハッピーで美しい。特段のクラシックの要素はないが、売り場としてはクラシックだ。[UNIVERSAL]
バッハ「無伴奏チェロ組曲(全6曲)」(アレクサンドル・クニャーゼフ:チェロ) [器楽]
(3枚組)
ロシア出身の鬼才によるバッハの定番曲。この組曲は、基本的にそれぞれがダンス(舞曲)の集合だ。個々のダンスには相場のテンポがあるため、普通はそれに従って演奏する。しかしクニャーゼフは時にそれを敢然と無視して、非常に遅い。例えば第6番第2曲のアルマンド(ドイツ地方の中庸なテンポの踊り)は15分49秒。手元にあるビルスマ新盤が8分27秒、シュタルケル新盤が6分22秒だから、その遅さが知れるだろう。サラバンド(スペイン地方のゆったりとした踊り)も9分16秒で、普通の倍くらいだ。第1番、第3番などはむしろ他の演奏より速いのだが、聴きものはやはり遅い曲であり、より内省的な第2番、第4番、第5番などがしっとりと沈潜していい。そこに聴かれるのは、自身の病気や夫人の事故死など、人生で幾多の困難を乗り越えてきたクニャーゼフ氏の心の歌とも言うべきものだ。バッハの音楽が、それによく応えていて感動的だ。[WarnerClassics]
チェロ名曲集「熊蜂は飛ぶ」(グイド・シーフェン:チェロ、オーラフ・ドレスラー:ピアノ) [器楽]
チェロのリサイタル盤というと、どうしてもヨー・ヨー・マかマイスキーとなる。この2人が傑出していることは事実だが、もう少し気軽に聴きたいと思うのも人情だ。1968年ケルン生まれのシーフェンのこのCDは、選曲・演奏・録音すべてにおいてよく、折りに付け取り出してはよく聴く。まず、名作オペラの第1幕から(というのがミソだが)を中心にした「椿姫パラフレーズ」は、なかなか情感・気分が出ている。そしてポッパーの名曲「ハンガリー狂詩曲」に、世界初録音とは思えないサロン風名旋律を持つジョルジュ・ブーランジェによる「ジョルジェット」。ハリウッドのような世界が現れる。タイトル曲はもちろん技巧の見せ場で、文句のない出来だ。[oehms]
パガニーニ「24のカプリース(奇想曲)作品1」(ターニャ・ベッカー=ベンダー:ヴァイオリン) [器楽]
パガニーニの24の奇想曲は、技巧的には相当に難しいと思うが、ヴァイオリニストにはまずそれを全く感じさせないことが求められる。その点において、ベッカー=ベンダーは申し分がない。また、ドイツ人だけあって、軽快さや美音とかを求めることはできないが、それに代わるものとして、かなり濃厚な表情付けや、いくらかデモーニッシュなところがある。ただ24の曲集は、1曲1曲が重くて独立しているから、そういうスタイルで通して聴くとかなりしんどい。それやあれやで、「之を楽しむに如かず」の境地まではいかないが、しかしこの力演は聴き応えたっぷりだ。(なお、ジャケットは「サリエリの夢」と題された泰西名画で、女性もベッカー=ベンダーではないので注意!)[hyperion]
ケクラン「サクソフォンとピアノのための15の練習曲作品188」他(フェデリコ・モンデルチ:サクソフォン、キャサリン・ストット:ピアノ) [器楽]
サクソフォンはフランス文化の中で生まれ、抒情的な音色に特徴があった。そのことは、ビゼーの「アルルの女」中のしっとりとして敬虔な間奏曲にも窺える。シャルル・ケクランはフランス近代の作曲家で管弦楽法の大家のようだが、ここに収められた曲集もフランスのエスプリを感じさせるもの。練習曲とは言っても、かなり凝ったピアノ伴奏が付くことから分かるように演奏会用だ。ケクランはサクソフォンの専門家ではないから、運指の練習曲のようなものはほとんどなく、親しみやすく平易なメロディーを持った、そのまま歌えるような曲が多い。だが、この多作家の晩年の作品であり、書法は大変に充実していて、聴けば聴くほど味わいを感じるスルメのような音楽だ。イタリア人モンデルチの演奏は、乾いた音色が耳に心地いい。[CHANDOS]
ヴァイオリン小曲集「魔弓伝説」(イヴリー・ギトリス:ヴァイオリン、岩崎淑:ピアノ) [器楽]
大御所ギトリスによる、1994年72歳の時の東京での録音。この1951年のロン=ティボーの覇者は、若い頃はベルクやパガニーニの協奏曲も録音したようだが、最近は小品集が中心だ。大時代のヴァイオリン奏法(というより演奏家のあり方)を現在に伝える、生きた化石のような人で、あたかも作曲家や聴衆の上に立って、自分が作曲したかのように音楽に入り込んで弾く。例えばシューマンの「ロマンス」。フレーズの隅々にまでテンポが微妙に揺れるギトリス節がぷんぷんしているが、聴き慣れたメロディーの歌心に思わず聴き惚れてしまう。一番聴くのはフィビッヒの「ポエム」。チェコの作曲家とその女弟子との愛の産物の一つという曲で、ギトリスは本当にたっぷりとした情感で、3分44秒の甘~い、甘~い夢を、聴く者に見させてくれる。[BMG]
バッハ「ゴールドベルグ変奏曲(非編曲)」(シルヴァン・ブラッセル:ハープ) [器楽]
ハープシコードのために書かれたゴールドベルグ変奏曲を、驚くことに基本的に編曲なしにハープで演奏した(こんなことが出来るんだ!)2007年録音の世界初録音盤。ブラッセルは現在リヨン音楽院で教鞭を執るハーピストだが、例によってブーレーズ一派で、アンサンブル・アンテルコンテンプランで指揮者助手をするなど現代音楽に深く傾斜している。その意味で、エマールの「フーガの技法」の兄弟盤のようなものか。演奏はしかし、モダン・ハープの典雅な響きを持ったもので、特段に対位法を強調したようには聞こえず、けっこう気持ちよく聴ける。ただ自身による解説は興味深い(例えば、この曲でアリアは実際には変奏されず、保持されるのは和音だからパッサカリアに近いとか、構造は舞曲を集めた組曲にも近いとか等々…やっぱり理屈っぽい!)。[Lontano]
バッハ「ゴールドベルグ変奏曲(シトコヴェツキー編曲)」(アマティ弦楽三重奏団) [器楽]
ゴールドベルグ変奏曲は偉大な曲ではあるが、人気のある曲でもあるので、様々な楽器の上で演奏される。ピアノではグレン・グールドの新旧両盤が光り輝く。各声部が別々の生き物のように独自の推進力を持って動き回る演奏で、世界中を驚かせた。これはグールドに捧げられた弦楽三重奏への編曲版。この曲は、バッハが厳格なフーガから離れてなお対位法を追求したもので、各声部が対等に競い合うスリルに面白さがある(作曲当時、すでに主旋律と伴奏部を明確に区別して、旋律の転調に関心が向かった新しいスタイルの音楽が台頭しつつあった。それはハイドンとモーツァルトによって完成する)。名手ギル・シャロンが主宰するアマティ三重奏団の演奏はグールドのスタイルを思わせる高レベルのもので、3つの声部が対等に張り合うさまに引き込まれる。1999年の録音で実売600円ほどの超廉価盤。曲と演奏の価値から、しばし考え込んでしまう。[COLUMNS]
バッハ「ゴールドベルグ変奏曲」(ピエール・アンタイ:チェンバロ) [器楽]
フランスのチェンバロ奏者ピエール・アンタイによる1992年の録音。ゴールドベルグ変奏曲はバッハ最晩年の大作で、バッハ鍵盤楽曲中の最高作であり、西洋音楽史における鍵盤楽曲の脈々と連なる連峰の中で、他の山々を圧してひときわ高くそびえ立つ巨峰だ。私にとってこの曲は愛好というよりほとんど畏怖の対象であり、無人島にたった一曲と言われたら、同じバッハのマタイ受難曲との間でさんざん迷った末に、この曲を選ぶかも知れない。主題と30の変奏からなり、全ての反復を実施すると1時間30分ほどのギネスものの曲だ(反復を全て省略すると半分の約45分)。アンタイは2003年の新録音もあるが、アンタイその人が前へ出て霊感に乏しく、端正で畏敬の念を持って真摯に曲に向かい合ったこちらの録音の方が、曲そのものの偉大さがよく伝わってくる。各変奏をよく弾き分けて、内的な充実が著しく、ジワーッとした感銘をもたらす。[OPUS111]
バッツィーニ「ヴァイオリンとピアノのための作品集」(クロエ・ハンスリップ:ヴァイオリン、カスパー・フランツ:ピアノ) [器楽]
クロエ・ハンスリップは、現在、世界の若手ヴァイオリニストの中で、私が最も注目している人だ。イギリス生まれの20歳で、5歳から7歳までロシア人に就いて英才教育を受け、その後ドイツ、イタリア、オーストリアで学んだ。ロシア楽派の影響からか、イギリス人には珍しくメカニック指向だ。オイストラフ、クレーメルに受け継がれるロシア楽派は、今では珍しいが、一音一音が意味を持つようにくっきりとして、決してムードに流されない。ここではパガニーニの存在に隠れたヴァイオリニスト兼作曲家バッツィーニ(バッジーニ)を取り上げ、高い技巧によって初めて可能となった、ミクロ単位とも言えるような女性らしい極め細かい表情付けによって、ヴィルトゥオーゾ・ヴァイオリンの世界を、完璧にかつ格調高く表現している。どの曲も素晴らしいが、2つのサロン風小品、2つの大練習曲などはスタイリッシュで絶品だ。まさに本物の才能に接する思いだ。[NAXOS]
ヴィエニアフスキー「新しい手法 エチュード・カプリース作品10、エチュード・カプリース作品18」(ユスティーナ・ヤーラ:ヴァイオリン他) [器楽]
ポーランドといえばショパンだが、ヴァイオリンの分野でも国民的作曲家がいて、それはロマン派期のヴァイオリニスト兼作曲家ヴィエニアフスキーだ。ここでヴァイオリンを弾いているヤーラは、ヴァイオリンのレッスンの時には必ず弾いていたというこれらのヴィエニアフスキーの練習曲を、亡き恩師のために録音したという(涙)。作品18は2つのヴァイオリンのための曲集で(生徒と教師用だろう)、まあまあの曲も含まれているが、作品10はソロで、いきなりスタッカートの連続であるなどかなり難しそうだ。ヤーラは技巧的には非常に歯切れが良い一方で、女性らしく歌わせる所もある。APOは初めて聞くポーランドのレーベルだが、高品質録音を売り物にしており、ホールでの録音は直接音中心で、かなり生々しい。(例によって私は練習曲を聴くのが大好きだ)[APO]