バッハ「無伴奏チェロ組曲(全6曲)」(アレクサンドル・クニャーゼフ:チェロ) [器楽]
(3枚組)
ロシア出身の鬼才によるバッハの定番曲。この組曲は、基本的にそれぞれがダンス(舞曲)の集合だ。個々のダンスには相場のテンポがあるため、普通はそれに従って演奏する。しかしクニャーゼフは時にそれを敢然と無視して、非常に遅い。例えば第6番第2曲のアルマンド(ドイツ地方の中庸なテンポの踊り)は15分49秒。手元にあるビルスマ新盤が8分27秒、シュタルケル新盤が6分22秒だから、その遅さが知れるだろう。サラバンド(スペイン地方のゆったりとした踊り)も9分16秒で、普通の倍くらいだ。第1番、第3番などはむしろ他の演奏より速いのだが、聴きものはやはり遅い曲であり、より内省的な第2番、第4番、第5番などがしっとりと沈潜していい。そこに聴かれるのは、自身の病気や夫人の事故死など、人生で幾多の困難を乗り越えてきたクニャーゼフ氏の心の歌とも言うべきものだ。バッハの音楽が、それによく応えていて感動的だ。[WarnerClassics]
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